相続人の中に認知症の人がいたら?

お父さんが亡くなって遺産分割協議をしようと思ったが、

すでにお母さんは認知症になっていて書類にハンコが押せない・・・本当によくあるケースです。

 

基本的に書類に署名捺印をしたりするには行為能力(単独で法律行為をなし得る能力)が必要であり、

代筆などしてしまうと後々本当に大変な問題になってしまいます。

 

認知症だったり、判断能力が低下していても、

実際には同居の親族がお世話していたり、施設に入っていたりするだけで通常生活を送る分には問題ありません。


しかし遺産分割協議をきっかけにそれまで放っておいた認知症の問題と

いやでも向き合うことになるのです。

 

 1.成年後見人の選任

 2.遺産分割後の問題

 3.対策

 

1.成年後見人の選任

 

認知症の度合いにもよりますが、判断能力のない方(今回はお父さんが亡くなったとしてその妻であるお母さん)のために

家庭裁判所で後見開始の審判を請求し、成年後見人を選任してもらう必要があります。

 

それで選任された成年後見人が、お母さんに代わって遺産分割協議に参加し、署名捺印等を行うことになります。

この成年後見人は親族の中から選ばれることもあれば、第3者の専門家が選ばれることもあるのですが、

相続人の中からはなれません。

お母さんの取り分を増やせば子の分が減るし、子の取り分を増やせばお母さんの分が減る、ということになるからです。

これを「利益相反」といいます。

 

裁判所を経由するわけですから、当然数日で決まるものではなく、それなりの費用と時間がかかります。

預貯金の解約等も相続人全員の署名捺印がなければ当然受け付けてもらえません。

遺産分けの作業も延び延びで解約・名義変更に時間がかかります。

 

また、成年後見人はその被後見人(判断能力がなくなったその本人)

の財産を守るのが主な役目なので、

遺産分割の場合はお母さんの法定相続分を必ず確保することになります。

例えば、

400万円の預貯金と自宅不動産が相続財産の場合は、200万円と自宅不動産持分1/2は確保、といった具合です。

 

 

2.遺産分割後の問題

 

成年後見人は一度就任すると、遺産分割が終わったからといってやめることはできず、

原則、本人か後見人になった人のどちらかが死亡するまで続けなければなりません。

これが大問題です!

 

提出書類や記帳などかなりの事務作業があり、専門家であれば月に3万円くらいかかったり、負担は大きなものです。

認知症により性格が変わってしまったから、関係が悪くなったから等を理由に後見契約を終了することができないのです。

なによりいつ終わるかわからないのですから気が遠くなります。

 

後見人になった親族などが財産を使い込む、ひどい事例があとを絶ちません。

また預貯金の少ない人は後見人に支払うお金がないということもあり、

専門家報酬を月に1万円くらいにしようなんていう意見もありますが、

事務作業や面接訪問などで月に十数時間使うとして、時間給に換算したら最低賃金下回る。

それでこんな気の遠くなる仕事をだれがするんでしょうか。。。社会的にも大きな問題です。

 

 

3.対策

 

認知症になってしまうと遺言書が作れないので、そうなる前にご自分の財産のことは自分で決めておきましょう…

・・・というのはおわかりかと思いますが、すでに認知症の気がある方がいるのなら。

 

手間や費用かけたくないし、遺産分割協議書にサインさえしてくれればいいから・・・というのはききません。

 

すでに認知症の気がある方が相続人の中にいる場合には、

その人が署名捺印しないですむように他の方が遺言書で決めておくべきなのです。

 

法定後見制度はかなり使い勝手が悪く、その方らしい生き方をさせてあげられない制度かもしれません。

 

 →遺言書を書いた方がいい人は?

 →遺言書の誤解シリーズ